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最高裁判所第三小法廷 昭和28年(あ)3276号 判決 1955年6月07日

本籍

熊本県菊池郡戸崎村大字今六七九番地

住居

熊本市健軍町九〇〇番地れの二の一〇号

南九州財務局管財課第二課長

木下寛祐

明治三六年五月二一日生

右収賄被告事件について昭和二八年五月七日福岡高等裁判所の言渡した判決に対し被告人から上告の申立があつたので当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人中川宗雄の上告趣意は末尾添附別紙記載のとおりである。

同趣意について。

しかし、原判決の判示によれば、「被告人黒田源五、同木下寛祐と、被告人中原栄蔵とは、形式的には相対立する立場にあつて、一見利害相反するかの如くに見えるけれども、原審公判廷においては、被告人三名とも、各金二万円を授受した事実を認めてその趣旨を否認し、被告人中原栄蔵は、たんに、年末に際し、それをお歳暮として渡し、又被告人黒田源五、同木下寛祐両名は、いずれも、これをお歳暮として貰らつたものであると、全く同一の弁解をし、主任弁護人免出礦も亦、被告人中原栄蔵は、被告人黒田源五、同木下寛祐のいずれからも、その担任する職務に関して便宜な取扱をうけた事実なく又被告人両名は、被告人中原栄蔵に対してそのような便宜な取扱をしてやつた事実は毛頭ないのであつて両者間に授受された金員は、時恰も年末であり儀礼的な土産物代りにされたにすぎないと主張して、各弁護人とも、実質上、各被告人に共通した利益な弁論をして同一の結果を期待し、しかも、その弁護を、相互に牴触することなく完全に遂行してその任務を全うしている事実を認めることができるし、所論のように、その一方に有利なことは必然他方に不利となる関係に在るものとは毫も認められないので、原審に於ける被告人黒田源五、同木下寛祐と被告人中原栄蔵とは、その利害相反しないものといわねばならぬ……云々」というのである。してみれば、本件において前記被告人等三名は、その利害対立しているものでなく、従て各弁護人は被告人等の私選弁護人として各被告人のために夫々権利の防衛を充分に主張して有利の弁護をなしうるものと認められるから、このことに関する原審の判断は正当であり、所論憲法三七条の保障による弁護人による権利の保護を拒まれたという論旨はその前提を欠くものであり単なる訴訟法違反の主張に過ぎず採用の限りでない。また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

よつて同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 島保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)

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